シングル総選挙
10月中旬、虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のシングル総選挙があった。
11月の終わりごろに結果は発表された。
中須かすみが1位だった。
これには確かに納得した。
スクスタ前半からフォーカスされているキャラクターで、他のキャラクターにはない魅力を持っている。
もしせつ菜が1位を取れないならかすみ(もしくは歩夢)なのだろうと思っていた。
また、それだけでなくかすみが"1位"を取ることはスクスタのキズナエピソードの物語に照らし合わせれば物凄く意味のあることであるように思えた。
ここからは少し中須かすみのキズナエピソード(3話〜5話)を振り返る。
いつも言っている「かすみんが誰よりもかわいい」というこの言葉。
かすみの真意はどこにあるのだろうか?
3話では、学校の部活動紹介で1曲しか歌えない同好会が9人で歌う時のセンターを決める総選挙を校内で行うこととなった。
そして、センターの投票結果発表当日。
自分が1位であることの理由付けはやはり愛らしい(=可愛い)から。
しかし、せつ菜や果林のような毛色の違うアイドルを意識していることから、アイドルが人気になる要因は何も「可愛い」だけではないことは分かってるはずだ。
一番になりたくて、センターを取りたくて裏では努力を重ねているかすみの必死な姿は逆に辛いものがあった。それは、かすみ自身がもはや自力では取れる可能性があまり高くないと察知しているからなのだろうと。
そして結果発表の時は来た。
かすみは9人中4位だった。
かすみは「自分が普通なんじゃないか」という不安と常に戦っているように思っていた。言ってしまえば強がりだ。
だから自分が"1位"なんだという証左が欲しかったんだと思う。
かすみが結果やライバルに対して異様な執着心を燃やすのは"1位"を奪われたくないからだろう。
しかし、かすみに突き付けられた結果は中の上。
「微妙ですよね」と自嘲気味に笑う。僕はこれがかすみの本心だったのだと思う。
確かに可愛いけれど、かすみんにとっての可愛いは自分への言い聞かせでもあった。
それでも可愛いだけは絶対負けたくないと強い決意を口にするかすみ。
そんなお話を見てきたからこそ*1、
「中須かすみと結果の関係」に僕は注目していた。
彼女が"1位"を取れたこと、それはとっても大きくて喜ばしいことなんだと思う。
きっとむしろ恥ずかしがってしまうと思う。
自推しのせつ菜もきっと「かすみさん、おめでとうございます!今度は負けませんよ」と悪意なしの笑顔で言い、「せつ菜先輩はいつも悪意なくそんなこと言うんだから…」とかすみを困惑させひょっとしたら泣かせちゃうのかも。
だから、僕は「かすみんおめでとう!」と言える。
80%は。
残りの20%、その気持ちは後悔だった。
このシングル総選挙は10月に投票が行われた。
この時、既に僕は紛れもなくせつ菜推しだったから、せつ菜のPV付きシングルはもちろん見たいに決まっていた。
推しになってから初めての大きな選挙系のイベントだった。
しかし、自分の中でせつ菜に投票し続けることについては少し疑念を抱いていた。
シングル総選挙には歩夢が1位を取りきれてないことやせつ菜が連続で1位を取るのはいかがなものか?
せつ菜が連続で1位をとることで虹ヶ咲というコンテンツが「どうせせつ菜が…」という空気になり、萎縮してしまうんではないか?
という要らぬことを考えていた。
というかもっと言ってしまえば自分が投票しなくても、どうせせつ菜が1位とるんでしょ?
ぶっちゃけそう思っていた。周りの反応から察するにそういう空気だった。
せつ菜のスクスタでの待遇は推しの自分から見ても1,2を争うくらい厚いと思うし、キャラクター作りもシンプルで分かりやすい。そりゃあ人気は出るだろう。
そんな思いを抱え迷った結果、10日間程度行われた投票は初日せつ菜、2日目歩夢に投票した。それ以降は投票しなかった。
投票結果発表の朝、
「せつ菜が1位じゃない」というツイートが流れてきた。
いやいや、まさか...、と思った。
実際蓋を開けてみたら、かすみが1位で、そしてせつ菜は2位だった。
ものすごく後悔した。
投票しなかった自分に。
果たして自分の10票があれば、本当にせつ菜は1位になっていたか?
その可能性は限りなく低いだろう。
だから僕は結果のことを言っているのではない。
"大好き"を世界中に溢れさせたい、きっと誰かの"大好き"を見捨てることなんてしない。
そんなせつ菜が大好きなのに、自分はコンテンツのバランスを保ちたいとか変なプライドのせいで、"大好き"に向き合えなかったんだと思った。
こんなやつの何がせつ菜推しなんだと思った。
こんなことを考えながら自分を責めた。
だから80%しかかすみを祝うことが出来なかった。
虹ヶ咲1st Live “with You"
1st Live”with You“の1日目のMC。
ヘッドライナーの楠木ともりさんは
自分の"大好き"に正直でいれましたか?
と会場の「あなた」に問うていた。
シングル総選挙の時の自分なら間違いなく"No"だった。
でもこの時は"Yes"と言えた。
それはシングル総選挙の後、ODAIBAゲーマーズ看板娘総選挙があったからだ。
僕はあのシングル総選挙で"大好き"に向き合えなかったことがあまりに悔しくて、ほぼ毎日投票した(ちょっとだけ応援コメントも書いた)。
正直、せつ菜って店員になったらただのかわいいオタクだし要らん説明しそうだし看板娘にふさわしいかなあ?って思わなくもなかった。でもふさわしいかどうかじゃなくて、単純に看板娘になって欲しいから投票した。
そうやって自分なりの"大好き"をぶつけることができた。
自分の“大好き”に正直でいられるか?という話の後、楠木さんはもう一つ「あなた」に問うた。
他の人の"大好き"を認められるか?
この問いは物凄く重い。すぐには答えられないのが普通だと思う。
しかし、一つだけ分かることがあった。
それは、まず自分の"大好き"を認められることが前提条件だということだ。
僕はセンターシングル総選挙の時、 かすみのセンター総選挙1位を80%しか祝えなかった。それは自分の"大好き"に真っ直ぐじゃなかったからなんだと思った。
この"80%しか祝えていない状態"は少なくとも20%分は、誰かの"大好き"を認められていない状態だったんだと思う。
だから、それすら出来ないと他人の"大好き"を許容することなんて出来ないと思った。
楠木さんの言われた他人の"大好き"を認めてあげることがせつ菜の野望である「世界中に"大好き"を溢れさせる」という野望に繋がるというのは目から鱗だった。
なんとなく頭にあった「せつ菜は人の夢とか好きを馬鹿にしたりはしないだろうな」という自分の仮説がストンと腑に落ちた。
しかし、「他人の"大好き"を認める」という言葉の意味を完全に理解しきれてはいなかった。それは虹ヶ咲的な文脈で言えば、「自分の推しが選ばれなかった時、負の感情を持ってはいけないということなのだろうか?」とか思った。
そんな考えは1日目が終わってからぐるぐる頭の中を回っていた。その重い問いかけに対する答えは2日目のアンコールまで出なかった。
今回のライブでは持ち曲を全て披露してアンコールに入った。
「持ち曲全部歌いました!」と宣言するキャスト。その後のアンコールである。
アンコールに歌う曲はない。一体何を歌うんだ?と疑問に思った。
少しすると幕間ドラマが始まり、まさかの会場でペンライトを挙げてその場で投票して一人を選ぶという形式だった。
今までにはない新しい形。とても虹ヶ咲らしい。
1日目は「さすがに茶番だろう」と思いながら赤のペンライト(優木せつ菜のイメージカラー)を振っていた。会場は赤がかなり多いような気がした。
そうしたら、出てきたのは優木せつ菜役の楠木さんで「CHASE!」だった。
この時のフェイクのカッコよさがとても心に響いた。
2日目は赤が昨日より少なかった。昨日より遥かにいい席だったこともあって僕は「CHASE!」がどうしても見たかった。だから1日目と同じ赤を振った。
茶番だったらせつ菜が出てくるだろうが、明らかに黄色や白とかが多い。
これは無理かもしれないと思いながら、祈るようにペンライトを振っていた。
...出てきたのは中須かすみ役の相良さんで「ダイアモンド」だった。
僕はシングル総選挙を思い出した。あの時と一緒だって。
でもあの時とは確実に違った。
確かに少し「せつ菜が出てこなくて悔しい」と思った。
だけど、今流れている「ダイアモンド」を楽しもうと思った。
その時に思った。
これが"他人の大好き"を認めることなのかもしれないって。
1日目、楠木さんは「"大好き"をぶつけましょう」と言っていた。
"ぶつける"という言葉のニュアンスは"認める"のそれとは少し遠い気がしていた。
どちらかといえば自分の好きを押し通すような強い言葉のイメージで、各人が”大好き“をぶつけると必ず衝突する。
虹ヶ咲で度々行われる、投票というシステムははまさに"大好き”をぶつける行為だ。
投票には勝敗がつく。"大好き"を"ぶつけて"敗者になったら少なからず負の感情はあるだろう。
その上で「自分の推しが選ばれなかった時、悔しいなって負の感情を持ってしまうのは致し方ない。それでもそれ以上に相手を尊重できますか?」ということがこのMCの言わんとしていることだったのだと思う。
つまり、「競い合うけど、相手を尊重をする」ということ。
楠木さんは「私は皆がそうなってくれると信じている」と言って、MCで「あなた」と指切りをした。
どうもこれはキャスト内で約束されたことを、「あなた」に約束するための意思表示だったような気がしている。
紛れもなく楠木さんが問いかけた相手は「あなた」で、「あなた」と約束したのだ。
そしてこれからも競争・投票というシステムは続いていくということを示している気がする。
各キャストの投票への想いや劣等感を聞いてより強くそう思えた。
「ダイアモンド」はとっても楽しかった。
会場の皆が満場一致で黄色を振っていた訳ではない。
だけど、「L・O・V・Eかすみん!」のコールは1回目のそれに負けず劣らずの音量だった。
あの時、楠木さんの言う自分の"大好き"も他人の"大好き"も認められた"大好き"が溢れる世界は武蔵野の森にあったような気がした。
少なくとも僕は出来たんじゃないかなと思った。
この"大好き"の溢れる世界が武蔵野の森じゃなくて、もっともっと大きくなってほしいと願うばかりだ。
ちなみにODAIBAゲーマーズ看板娘総選挙の結果はまだ出ていない。
せつ菜以外の誰かになっても、「せつ菜じゃなくて悔しいな」とは思いながら、今ならきっと100%の気持ちでその人を祝えるのだろう。
自分の"大好き"は十分ぶつけられたのだから。